図説:東北の稲作と冷害

どうして深水にすると雑草発生量が減るのか?


生育初期の深水がノヒエを減らすメカニズムや除草剤の効果を高める。

 水田で一番いやな草は何ですか?多くの農家の方は「稗」と答えます.田んぼに生えるヒエには3種類があります.稲よりちょっとだけ背が高くあまり目立たないのに,種子だけは大きくて立派なのが昔からあったタイヌビエです.未熟厩肥などから入ってきた少し背の高いイヌビエ(これにはのげの長いものからないものまで,全体に赤っぽいものから緑のものまで多くのものが含まれます.),東北ではめったに見かけませんが,九州などの西南暖地に多いヒメタイヌビエです.このヒエの穂には独特の輝きがあります.お宅のヒエはどれに当たりますか?タイヌビエには種子の両側が膨らんでいる太平洋側に多いタイプと片側が平らな日本海側に多いタイプがあります.専門家は種(たね)や穂をよく観察します.
 戦後まもなく東北農試の場長だった八柳三郎さん,岩手農試の大沼齊さんらがノビエの防除のために深水の試験をしています.そのころは15cmもの水は貯められなかったでしょうが,少しでも深くするとノビエが減った様子がわかります.
 食用のヒエをみても分かりますが,ヒエは強い植物で,冷害の年でも収穫できます.しかし,種子が小さい分,生育初期に深水にすると大きくなれません.どのくらいの水深が必要かと言いますと,できれば15cm,だめなら10cmはほしいところです.イネがなければ最初から15cmの水深ならノビエは出ません.深水にするタイミングが重要です.ノビエは第2葉までは水面になびいて弱いものです.第3葉が空中に出るまでに深水にしないと意味がありません.3葉が水中に没していると,そのうちに溶けて消えてしまいます.これが少しでも空中に出るとしっかり立って,後はどんなに深くしてもノビエはどんどん大きくなります.したがって,前歴深水とするにはやや早すぎる時期で,同じ時期に両者を目的にはできません.明らかに移植直後の水管理で,ノビエを出さないための方法だと意識して,かんがい水を貯める必要があります.
 もしもお宅の田んぼにオモダカやクログワイがないなら,除草剤なしで深水管理だけで稲作ができると思います.この方法が使えるのが冷害対策のために畦をしっかり作ってある田んぼだから適用できるのです.畦を高くして除草剤を何回も散布していたら,ちっとも儲からない稲作でしょう.
 除草剤を効かす上でも深水は重要です.フロアブル剤という白濁した液を田んぼに撒いたり水口から拡散させたりする除草剤があります.これをラジコンボートで播くことにしたのですが,苗の痛みを少しでも少なくするために深水にしたところ,除草効果が極めて高くなったことがありました.一発剤を散布する前は少し多めにかんがいをし,しっかり止め水をすると除草効果を高めます.
 水田に生えるどんな雑草でも減るわけではありません.コナギやタマガヤツリのような一年生の雑草は明らかに減ります.図のように深水にするとタイヌビエなどは減りますが,オモダカやクログワイは増えますからご注意ください.私が若い頃,コンクリートの枠で水深別のオモダカの生育を調査したところ水深50cmでも十分生育し,種子も塊茎もつけた.繁殖量が一番多かったのは水深15cmの場合であった.
 こうした例からも分かるように,防除しようと思う草のいやがる条件を水田に作ってやれば自然にその草は少なくなるが,このとき別の草が増えないようにみておくことが重要なポイントになる.

水深の差異と残草量

伊藤一幸(1995)今後の水稲作における水管理と水生雑草の反応.日本雑草学会第11回シンポジウム講演要旨,12-33 東北大学.
伊藤一幸・渡辺泰(1983)オモダカ科雑草の生育と繁殖体形成におよぼす水位の影響.雑草研究 28,25-31.
大沼齊(1952)灌漑水深浅の差異が水田野稗の発生量に及ぼす影響について.東北農業 5, 166-168.
八柳三郎・高野久・及川正(1952)水深によるノビエの生育について.東北農業 5, 171-173.

 
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