図説:東北の稲作と冷害

湛水土壌中のリン酸の動きとその効果


湛水された土壌は水稲の生育のためにさまざまな有利な側面をもつ。ここでは、リン酸の有効化機構、稲の吸収特性ならびに冷害年におけるリン酸の効果を概説する。

湛水土壌中のリン酸の動きとその効果


水田では畑地に比べて、リン酸の可給性がよいことは古くから知られていた。
水田におけるリン酸の有効化の機構は、一般には次のようにまとめられる。
    1) リン酸第2鉄の還元によるリン酸の遊離とリン酸第1鉄の生成
    2) 吸蔵酸化鉄の溶出:吸蔵とは、酸化鉄皮膜でコーティングされているリン化合物。
    3) 土壌反応の上昇に伴う可溶化:湛水による還元に伴いpHが上昇し、それによりリン酸イオンが放出される。
    4) 硫化水素によるリン酸の遊離
    5) 有機酸による可給化
    6) 有機リンの無機化:有機リンのうち、量が最も多いのはフィチンである。次いで多いのが核酸である。これらは還元またはpH上昇により無機化される。

このようにして、水田土壌中で有効化されたリン酸は、稲によって吸収・利用される。
リン酸は活着後盛んに吸収され、葉中のリン酸含有率は高くなる。それに伴って分げつが盛んに発生する。葉中のリン酸含有率は乾物が急増する時期から低下してゆく。稲は生育期間を通して吸収されるリン酸のほとんどを出穂・開花にまでに吸収する。吸収された総リン酸の80〜90%は穂に再分配される。
このような土壌中におけるリン酸の有効化機構と稲の吸収特性から、リン酸は基肥で施用される。

リン酸の効果

さて、冷害年においてリン酸の効果がしばしば指摘されるが、その理由は上の図でよく理解できる。
これは、深井(1952)が、北海道農業試験場で昭和元年から23年までに行った試験をとりまとめたものである。リン酸の効果が明瞭に読みとれる。
1) 無リン酸区の収量は、平年では3要素区に対して91%に対して、冷害年では50%まで低下する。
2) リン酸単用区の収量は、平年では無肥料区とほぼ同じ減収率であるが、冷害年には無肥料区75%に対して96%となる。
3) 年次間変動が大きいのは、無リン酸区で、次いで窒素単用区であり、リン酸を施用しないと気象条件に大きく左右される。
4) 23年間の3要素平均収量(405kg/10a)を100とすると、無リン酸区は冷害年には22%になり、リン酸の効果が大きい。
 
このように、リン酸は土壌の湛水によって有効化され、イネの出穂・開花までに吸収され分げつの形成に大きく影響する。また、リン酸は基肥で施され、冷害年には特のその効果が顕著に現れる。

参考資料:
古川秀顕(1978) リン酸の形態と淡水化における変化。川口桂三郎編「水田土壌学」講談社。
志賀一一(1982) イネ科穀類。田中 明編「作物比較栄養生理」学会出版センター。
和田 定(1992) 「水稲の冷害」養賢堂。

参照図説:
 湛水された水田土壌の特徴と窒素の動き
 
質 問:分げつの促進にはリン酸の他にどのような条件が必要なのか?

 
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